大判例

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東京高等裁判所 昭和61年(う)992号 判決

所論は,鑑定人金子嗣郎作成の鑑定書によれば,本件各犯行当時,被告人は破瓜型精神分裂病に罹患し,本件各犯行はその病気に強く支配されていることが認められるのに,被告人を精神分裂病と認定せず,単に精神分裂病を疑わせる症状が現れていると認定し,何程か精神分裂病が影響していることは否定できないとするにとどまり,被告人の心神喪失を否定し,心神耗弱を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認がある,というのである。…中略…前記金子精神鑑定書によると,被告人の精神状態については,その生活史からみると破瓜型の精神分裂病が最も考えやすく,また,医学的所見もこれを裏づけていること,即ち,身体的諸検査においては特にポジティブな所見はないが,精神医学的所見,心理テスト所見からは,自閉・孤独・嫌人・感情の冷却化・意欲の低下・無関心・唐突・思考の硬直化などのいわゆる精神分裂病の陰性所見がみられるほか,陽性症状としての幻聴・妄想の存在も否定できないこと,また,現在まで精神医学的に未治療であり,現在も病的過程は持続し,進行していることから,被告人は,おそくとも17,8歳ころより破瓜型分裂病に罹患しており,無為・自閉・嫌人・感情の鈍麻,一方的で柔軟さに欠ける思考,現実適応能力の低下などの症状がつづいており,現在においても破瓜型分裂病は進行していることが認められる。

しかして,同証拠によると,被告人は,本件犯行時においても精神分裂病の陰性症状が持続し,狭く,一方的で,融通の利かない,硬直化した思考様式の中で「うらみをはらしたい」という思念が優価値観念にまでたかまつており,これに基づいた犯行であると考えられることから,被告人は本件犯行時において,右疾患のため事の是非・善悪の判断をする能力及びその判断に基づいて行動する能力が著しく低下しているとしていることが認められるが,しかし,明らかな幻覚・妄想によつて支配された犯行であるとは認められず,同鑑定もその能力を喪失していたとは判断していない。

しかも,原判決挙示の関係証拠によれば,(イ)被告人は,本件犯行当時,格別支障もなく新聞配達員としての仕事に従事し,通常の日常生活を送つていたこと,(ロ)本件犯行の動機は,いささか硬直した思考に基づいてはいるが,解雇当時の被告人の困惑,不満からすれば,ある程度了解可能であること,(ハ)本件各犯行にあたつては,予めベンジンを用意して被害者宅に赴き,辺りに人影がないことを十分確認してから敢行し,犯行後直ちに逃走し,また,直接ベンジンに着火すると火傷のおそれがあるとして,一旦テイツシユペーパーに着火した火をベンジンに移すなどし,更に,各犯行は,警戒の手薄なときを狙うべく,日時的間隔を十分とつて敢行しているなど,合目的的で,かつ,周到な注意を払つているものであること,(ニ)犯行時及び犯行前後の見当識も一応保たれており,事後の記憶も正常に保たれていること,が認められる。

以上認定の事実に照らすと,原判決が,被告人が,本件犯行当時破瓜型分裂病に罹患していたとしても,本件犯行が病的体験に深く,広く支配されていたとは考えられず,被告人は本件各犯行当時,精神分裂病による心神の障害のため,事柄の是非善悪を弁識し,その弁識に従つて行為する能力が全く欠けていたのではなく,その能力が著しく減退した状態にとどまつていたと認められるとしたのは,結局正当として是認することができる。

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